大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和61年(行ツ)178号 判決

上告人

新開武

上告人

中山勝

右二名補助参加人

三木豊樹

右訴訟代理人弁護士

奥津亘

佐々木齊

大石和昭

被上告人

番正辰雄

被上告人

浦野政秋

被上告人

高松第一漁業協同組合

右代表者理事

浜谷清正

外一五名

右一八名訴訟代理人弁護士

小早川輝雄

赤松和彦

大西昭一郎

大西周四郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告補助参加人代理人奥津亘の上告理由について

一原審が適法に確定した事実及び記録に徴すれば、本件訴訟の経過は次のとおりである。

(一)  坂出市の住民である上告人ら外三名は、昭和五二年五月一六日、同市監査委員に対し、同市の市長である被上告人番正辰雄が林田・阿河浜地区工業用地造成事業の施行に伴い関係漁業団体に支出した漁業補償金は違法、不当なものであるとして、同市が被った損害の返還の措置を求める旨の監査請求をしたところ、同市監査委員は、これに対し、同年七月一三日付けで右監査請求はいずれも理由がない旨の通知をしたので、上告人ら外二名が、同年八月八日地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号の規定に基づき、同市に代位して被上告人らに対し前記損害の賠償を求める本件訴訟を提起した。

(二)  坂出市の住民である上告補助参加人は、昭和五二年九月一九日上告人らの右監査請求と同趣旨の監査請求をしたところ、同市監査委員は、上告補助参加人に対し、同年一一月七日付けで右監査請求は理由がない旨の通知をしたので、上告補助参加人は、同年一二月六日本件訴訟について、上告人ら外二名を補助するため参加する旨の本件補助参加の申出をした。

(三)  第一審裁判所は、昭和六〇年一〇月三一日本件訴訟につき、上告人らの請求をいずれも棄却する旨の判決をした。これに対し、上告補助参加人は、同年一一月一三日原審裁判所に控訴を申し立てたところ、上告人らは、昭和六一年五月七日控訴取下書を提出した。

(四)  原審は、上告人らの控訴取下げにより本件訴訟は終了したとして、前文記載の判決をもって訴訟終了宣言をした。

二論旨は、要するに本件補助参加につき、いわゆる共同訴訟的補助参加の効力を認めなかった原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものである、というのである。

三法二四二条の二第四項は、同条一項の規定による訴訟(以下「住民訴訟」という。)が係属しているときは、当該普通地方公共団体の他の住民は、別訴をもって同一の請求をすることができないと規定しているが、右規定は、住民訴訟が係属している場合に、当該住民訴訟の対象と同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象とする適法な監査請求手続を経た他の住民が、同条二項所定の出訴期間内に民訴法七五条の規定に基づき共同訴訟人として右住民訴訟の原告側に参加することを禁ずるものではなく、右出訴期間は監査請求をした住民ごとに個別に定められているものと解するのが相当であるから、共同訴訟参加申出についての期間は、参加の申出をした住民がした監査請求及びこれに対する監査結果の通知があった日等を基準として計算すべきである。そして、右期間内において、前記の適法な監査請求手続を経た住民が住民訴訟の原告側に補助参加の申出をしたときは、当該住民は右住民訴訟に共同訴訟参加をすることが可能であるところ補助参加の途を選択したものというべく、右補助参加をいわゆる共同訴訟的補助参加と解し、民訴法六二条一項の類推適用など、共同訴訟参加をしたのと同様の効力を認めることは相当ではないというべきである。

本件についてこれをみるに、前記の事実関係によれば、上告補助参加人は、本件訴訟の対象と同一の財務会計上の行為を対象とする適法な監査請求手続を経たうえ、法二四二条の二第二項所定の出訴期間内に、本件訴訟につき、原告である上告人ら外二名を補助するため本件補助参加の申出をしたのであり、本件補助参加の申出は、共同訴訟参加をすることが可能である場合に行われたものであることが明らかであるから、本件補助参加をいわゆる共同訴訟的補助参加と解することはできない。

そうすると、上告補助参加人がした本件補助参加は通常の補助参加と解するのが相当であるから、上告補助参加人がした本件控訴は、上告人らの控訴の取下げによってその効力を失い(民訴法六九条二項)、本件訴訟は右控訴の取下げにより終了したものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大内恒夫 裁判官角田禮次郎 裁判官髙島益郎 裁判官佐藤哲郎 裁判官四ツ谷巖)

上告補助参加人代理人奥津亘の上告理由

原判決には法令の解釈適用に誤りがあって、この誤りは判決の主文に影響することが明らかである。

一、原判決は、地方自治法第二四二条の二住民訴訟において先行する訴訟が存在している場合には、同一の請求について自ら監査の結果を得た者は、自らの出訴期間内であれば先行訴訟に共同訴訟参加を為し得るとの解釈を採用した。

しかし、地方自治法第二四二条の二第四項民訴法第七五条によると、右のような場合には、共同訴訟参加は先行する訴訟の出訴期間内にしか出訴を為し得ず、これを徒過した後は補助参加しか為し得ないと解すべきであり、この場合の補助参加は共同訴訟的補助参加と解すべきものである。

民訴法第七五条の共同訴訟参加は合一確定の要求のある場合に認められるものであるから、その訴訟要件である出訴期間についても被参加訴訟の出訴期間によるべきものである。

これに反し、自ら監査請求をした者が自らの出訴期間内であれば、共同訴訟参加を為し得るとした場合はまさに自らの訴えの提起であって、実質的には別訴といいうる。実質的には別訴を提起し、併合したと同一の結果となる。そうだとすると、弁論の分離も可能との結論になり、判決の合一確定を目的とし、別訴を禁じた地方自治法第二四二条の二の法意に反することとなるのである。

したがって、別訴を禁じた右法意に忠実に解すれば、住民訴訟の出訴期間は、一番最初に訴を提起した住民の出訴期間に限られるべきであり、後に監査請求した者について、それぞれにその出訴期間を起算すべきものではない。先行する訴訟の出訴期間がすでに経過している場合は補助参加しか為し得ないと解すべきものである。

しかしながら、右のような補助参加は必ずしも先行する訴訟と生死を共にする必要はないのであるから、弁論の分離は許されないが、取り下げ等については先行する訴訟と同一の運命をたどらせる必要はない。そこで、民訴法第六九条第二項を、この場合は排除すべきであって、共同訴訟的補助参加と解すべきものとなるのである。

そうだとすると、上告人両名の訴の取り下げは上告人補助参加人には効力を有さず、訴訟はなお補助参加人との間で係属していることとなるのである。

この点、右の見解と異なる原判決は、法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。

二、法令の解釈については、判例が重要な指針となるところ、本件について極めて説得力のある重要な判例がある。

東京高等裁判所昭和四六年五月三一日判決(裁判官桑原正憲・寺田治郎・濱秀和)によると、本件と同様の事例において為された補助参加の申立を共同訴訟的補助参加と解し、被参加人の訴の取り下げによっては訴訟は終了せずなお係属していると解している。

原判決は、右東京高裁判決と正面から相反するものであって判例が不統一である。よって原判決を破棄されたい。

三、住民訴訟において後続の住民が先行の訴訟に共同訴訟参加しうるか否かの論議はしばらく置くとして、本件のように補助参加の申立として形式的には為されていても、先行する訴訟に後続の補助参加人の訴訟よりもより以上の権能を与える必要はなく、住民訴訟における補助参加においては民訴法第六九条第二項の適用はないものと解すべきである。

補助参加人が補助参加の途を選ぶのは、解釈の分かれていて確定していない訴訟の選択において無難な方途を選んだ、というにすぎなく、先行する訴訟に補助的立場でしか参加しないという意思に基づいて為しているわけではない。自らの訴訟の運命を先行する訴訟に委ねてしまうとの趣旨を有しているとはいえないものである。

また、実質的にも、住民訴訟においては、先行する訴訟に主たる地位を与える必要はないから、補助参加とされているものについても、共同訴訟的補助参加とすべきである。

しかるに、原判決は、この立場をとらず補助参加と記載されているとの形式的理由により、補助参加の効力しか認めていないものであって、住民訴訟における補助参加の解釈に誤りがあって判決の主文に影響を及ぼすことが明らかである。

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